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なぜ出版社はゴーストライターを使い続けるのか?(Business Media 誠)

 「こちらがゴーストを使わざるを得ない理由を書かないと、アンフェアだ」――。ここ数回、ゴーストライターについて書いたところ、主要出版社で勤務する役職者の一部から、こういう指摘を受けた。役員からも電話があり、「記事はライターの側に偏っている」といったことを言われた。

 彼らから指摘されるような意識はなかったが、ここで私の問題意識をもう一度、書いてみる。

・現在のビジネス書の多くは、「ゴーストライター」が書いたものである(実は、雑誌やITの記事にも「ゴーストライター」がいる。ただし、予算が少ないので編集部員が「ゴーストライター」を兼務する場合が目立つ)。
・ライターの氏名が本の中に記載されない場合がある。これは、責任の所在をあいまいにする。さらに著作権がどこにあるのかも、分からなくなる。著者やライターの意識を高めるためにも、氏名を載せることが急務。
・本の裏の奥付に「編集協力」「執筆」「ライティング」などと表記し、ライターの氏名を掲載する。
・印税の分配は、三者(著者、編集者、ライター)のコンセンサスで決めていくべきもの。初版は、著者5:ライター5が好ましい。

 批判してきた編集者によると、私のこのような考えが「ライターの側に偏っている」ようだ。そこで、今回はある主要出版社の協力を得て、彼らがゴーストライターを使わざるを得ない背景を浮き彫りにしていきたい。

●管理職の言い分と、元役員の言い分

 このくだりについては、その編集部の了解をとるために、記事にする前に原稿を見せたことを述べておく。そこで少々の意見の違いもあったが、その後調整が行われた。そのような記事になっていることを了解していただきたい。

 この出版社の編集部では、書籍編集者が年間で20冊前後を作ることが求められている。ただし、すべてがそのペースを守れるわけではない。例えば、30代半ばのある編集者は昨年13冊を作った。そのため、この数字は、上司によると「好ましくない」のだそうだ。

 このあたりは、管理職(副編集長、編集長、編集部長)の中で意見が一致していない。ある者は、「年間で求められるペースを維持することが大前提」という。その一方で、こう答える者もいる。「どれだけ売ったかの総数が、何よりも大切」。実は、ほかの出版社の管理職たちに尋ねても、ここは意見が分かれるところだ。

 そこで、私はこの会社の元役員(現在、中小出版社顧問)に連絡を入れた。その人はこう答える。

 「年間の総売上部数によって、上司は編集者を判断しない。少なくとも、3つの判断基準がある。1つは、1冊の刷り部数に対しての売り上げがどのくらいあるのか。そして増刷率(年間何冊作り、そのうちどれくらいが増刷になったのか)、コスト――これら3つが職務遂行能力の判断基準」だという。

 管理職の言い分か、それとも元役員の回答が実態に近いのかは読者の判断にまかせる。なお、元役員の回答に「コスト」とあるが、これは他の業界の人が考えるような厳密なものではない。コストについて書くことは、今回の取材先の出版社との間にコンセンサスが得られなかった。ここでは控えたいが、このあたりが闇にされているために、著者(表向きの『書き手』、実は話しているだけ)のあおり(経済的な損失)をゴーストライターが受けるのである。

●発売後1カ月以内で少なくとも3000部以上

 ここまでを見ると、編集者が一定のペースで売れる本を出していかざるを得ない事情が分かってくる。だが、ゴーストライターを起用する理由があいまいである。そこで今回、取材が許された編集部を仕切る編集長に尋ねると、このような回答だった。

 「初版で仮に7000部を刷るとする。そのときに、発売後1カ月以内で少なくとも3000部は売りたい。増刷に持ち込むためには、書店に並べて始めの1カ月で最悪でも3000部以上、2カ月目で1500〜2000部、3カ月目で750〜1000部にはしたい。このペースでもその本にトピックス(話題)があり、それが広がらないと、売り上げを伸ばすのは難しい。最終的に3万〜5万部の売り上げになるためには最初の1〜2カ月の数字は、もっとよくないといけない。なお、編集部全体で3万〜5万部売れている本を1冊でも多くそろえることが、財務的にいちばんいい。10万部を超えるものがあるが、1万部を切る本がいくつもあるというのは部としてまずい」

 この編集長の発言は、私のつかんでいる情報とかなり重なる。ポイントは「発売後1カ月以内で少なくとも3000部以上」のところだろう。これは、1日で約100部ということになる。これだけのペースで本が売れる著者は、おのずと限られてくる。読者がメディアでよく見かける、“いつもの人たち”である。

 なお、違う出版社の編集部長は「1日で全国の書店で50冊売れていれば、その本は合格」だという。ライターや作家の中で、この言葉を素直に受け入れている人がいる。だが、これは「発売後、数カ月以降のこと」を意味しているのではないだろうか。本の発売直後からこのペースでは、1カ月目が1500冊となり、翌月が700〜800冊に落ち込む可能性があるからだ。

 ここまで来ると、書籍編集者がゴーストライターを使い、毎度定番の人に書かせていく背景が見えてくる。そもそも、なぜ書籍編集者は“いつもの人たち”に「本をご自身で書いてもらえませんか?」と仕向けないのだろうか。それについて、取材をした編集長は「そんなことは言えない。怒らせて逃げられたら、おしまい」という。

 実際は、ほとんどの著者が「ライターに(自分の代わりに書くことを)お願いしたい」と編集者に頼んでくるという。だが、私の考えとこの編集者の回答は違う。私は、多くの著者からこういう話を聞かされる。「編集者がここに来て、本を出すときはうちのライターに書かせますから……と言った」。そのメールを、私は数十通入手している。

 いずれにしろ、「年間20冊のペース(努力目標)」「編集者の人事評価(職務遂行能力)」「発売後1カ月以内で少なくとも3000部以上は売る」あたりの事情を踏まえると、ゴーストライターを絶えず起用せざるを得ないのだろう。

●ゴーストライターを使い続ける理由

 ここから先は、私が感じ取っていることを書き加えたい。私は、出版社がゴーストライターを使い続ける理由の1つに「本の賞味期限」の問題もあると思う。本屋に本を並べ約1カ月もすると、書店から「この本は売れないからいらない」と返本を受ける。これが、「本の賞味期限」である。

 ここ4〜5年は、この期間が短くなっている気がする。大型書店で働く知人たちに尋ねても、「3週間目で返本することが増えてきた」という。このような状況は、1990年代初頭にはあまりなかったのではないだろうか。本に限らないと思うが、商品のサイクルが短くなると、それを作る人にはそれなりの負担がかかるということだろう。

 つまり書籍編集者は、「ハツカネズミが輪をぐるぐると回すが如く、本のプロジェクトを同時並行でいくつも回す。ここにゴーストライターを使わざるを得ない、大きな理由がある」(前述の、取材先出版社の元役員)のである。

 そう考えると、「商業用日本語」を時間内に書くことができない著者が「私が書きます!」と言い始めると、それこそ「編集者からすると、ヤバイ」(前述の、取材先出版社)のだ。

 ここまで来ると、こう思う人はいるだろう。

 「ゴーストライター、著者、編集者が互いに助け合って本ができ上がるのだから、それでいいのではないか」

 俯かん的に見ると、そのとおりなのかもしれない。しかしローアングルで……つまり、実際の関係者の証言を拾い集めると、トラブルの多い仕事であることを確信する。現在、取材を進めている中には、法的な争いにまで発展したケースもある。ほおかむりをしている著者もいる。これらを覆い隠すことは書き手の権利保護の観点からも好ましくないので、今後はそのあたりを解明していく。【吉田典史】

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